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【FPが徹底解説! 人生設計に不可欠な社会保障】vol.9:繰上げvs繰下げ。生涯受給額を最大化する判断基準

【FPが徹底解説! 人生設計に不可欠な社会保障】vol.9:繰上げvs繰下げ。生涯受給額を最大化する判断基準

〜損益分岐点だけでは見えない「手取り額(税・社会保険料)」の真実〜

「年金はくり下げて受給すれば、最大84%も増額できる!」
マネー誌やネットニュースでこうしたフレーズを目にする機会が増えました。 「それなら絶対に繰下げ受給(遅らせて受け取る)が得だ」と考える方も多いのではないでしょうか。

しかし、年間数百件の年金相談を受けてきたFPとして、断言させてください。 「額面(総受給額)」の損益分岐点だけで繰下げを決めるのは非常に危険です。

年金が増えると、それに比例して「所得税」「住民税」「国民健康保険料(介護保険料)」も跳ね上がります。 今回は、表面的な金額に惑わされず、「実際の手取り額」を最大化するための真の判断基準をわかりやすく解説します。

1. 繰上げ・繰下げの基本ルール(おさらい)

公的年金の受給開始は原則65歳ですが、希望すれば60歳〜75歳の間で時期を調整できます。

  • 繰上げ受給(60歳〜64歳で受給開始)
    • 1か月早めるごとに0.4%減額(最大24%減)
    • 一度減額された増減率は生涯変わらない
  • 繰下げ受給(66歳〜75歳で受給開始)
    • 1か月遅らせるごとに0.7%増額(最大84%増)
    • 一度増額された増減率は生涯変わらない

額面ベースの損益分岐点(何歳まで生きれば得か?)

単純計算(税金・保険料を無視した額面)での損益分岐点は次のようになります。

選択肢 65歳受給開始と比較した損益分岐点
70歳に繰下げ 81歳11か月を超えて生きると65歳受給より得
75歳に繰下げ 86歳11か月を超えて生きると65歳受給より得
60歳に繰上げ 80歳10か月より早く亡くなると60歳受給が得

「82歳まで生きれば70歳繰下げが得なら、平均寿命を考えたら繰下げ一択では?」と思いがちですが、ここからが本題です。

2. 深掘り:税金・社会保険料の「壁」〜手取り率は一律ではない〜

日本の公的年金は雑所得として課税され、その所得金額を元に「国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)」や「介護保険料」が算出されます。
日本は累進課税制度(所得が高いほど税率が上がる仕組み)を採用しているため、年金額が増えれば増えるほど、天引きされる額の割合が増加します。

年金額と「手取り率」の目安

一般的な単身世帯の場合、額面年金額に対する手取り率の目安は以下のようになります。

  • 年金150万円(65歳時点): 手取り率 約90%前後
  • 年金250万円(繰下げ後): 手取り率 約80%〜85%
  • 年金300万円以上(大幅繰下げ後): 手取り率 約75%〜80%

つまり、繰下げによって額面を1.4倍(+40%)に増やしても、手取り額は1.3倍程度にしか増えないという「目減り現象」が発生するのです。

損益分岐点が「1〜2年後ろにズレる」

手取り額ベースで再計算すると、額面では81歳11か月だった70歳繰下げの損益分岐点は、83歳〜84歳前後まで伸びます。
「82歳で得をするはずだったのに、実際は84歳まで生きないと元が取れない」というギャップが生まれるわけです。

3. 【注意】繰下げで「消滅・停止」する2つの加算制度

繰下げを検討する際、税金以上に落とし穴となるのが「家族手当」に相当する各種加算です。

1. 加給年金(厚生年金の家族手当)

厚生年金に20年以上加入しており、65歳到達時に生計を維持している「65歳未満の配偶者」がいる場合、年額約40万円が上乗せされます。

  • 落とし穴: 自分の老齢厚生年金を繰下げている間は、加給年金を受け取ることができません。
  • 65歳から70歳まで5年間繰下げると、受取予定だった加給年金(約40万円×5年=約200万円)を丸々権利放棄することになります。

2. 振替加算

加給年金の対象だった妻が65歳になった際、妻自身の年金に加算される制度です。 こちらも繰下げ期間中は支給されません。

FPのアドバイス:
加給年金が支給される(年下の配偶者がいる)方の場合、「老齢厚生年金は65歳から受給して加給年金をもらい、老齢基礎年金(国民年金)だけを繰下げる」という「分離繰下げ」が最適解となるケースが非常に多いです。

4. あなたにとっての「最適解」を選ぶ3つの判断基準

以上のリスクや仕組みを踏まえ、 FPが提案する「繰上げ・繰下げの判断チェックリスト」です。

【1】「加給年金」の対象になる配偶者がいるか?
│
├─ YES ─► 厚生年金は65歳受給(加給年金を取得)し、基礎年金のみ繰下げを検討
└─ NO ─► 【2】へ

【2】65歳以降の「就労収入(お給料)」があるか?
│
├─ YES ─► 働いて生活費を賄えるなら、70歳前後の「繰下げ」で節税・増額を狙う
└─ NO ─► 【3】へ

【3】貯蓄残高や健康状態に不安があるか?
│
├─ YES ─► 無理に繰下げず、65歳(場合によっては繰上げ)で受給し生活基盤を安定させる
└─ NO ─► 平均寿命(女性87歳・男性81歳)を考慮し、70歳前後までの繰下げを検討

まとめ:数字のインパクトではなく「手取りとライフプラン」で決めよう

年金の繰上げ・繰下げは、単なる「得か損か」のギャンブルではありません。

  • 健康不安がある・今の生活費が足りない → 繰上げや65歳受給で早期補填
  • 65歳以降も働く・手元の資金に余裕がある → 繰下げで将来の長寿リスク(長生きに伴う資金枯渇)に備える

そして何より、「税金・社会保険料の天引き後の実質手取り額」でシミュレーションすることが成功の鍵です。
ご自身の正確な手取り額シミュレーションや、加給年金を含めた最適な受給開始時期については、ぜひ弊社FPにご相談ください。

次回 第10回 予告

「働きながら年金をもらう『在職老齢年金』の仕組みと調整方法」

給与の設定ひとつで年金がカットされないコツをお伝えします!お楽しみに!